こんにちは、清兵衛(せいべえ)です。
東京と京都で、20年以上ビジネスパーソンとして働き、様々な企業や役所などの、いろいろな役職の方々とお仕事をさせていただいてます。
本記事では、『哲学のすすめ』の書評をお届けします。
哲学が生活の中で果たしている役割について、哲学的な「考え方」を説明し、哲学と科学はどう違うかというような根本的問題を、平明な言葉で説明してくれる一冊です。
書籍の紹介
仕事をする上で、新規事業計画であったり、営業であったり、プレゼンであったり、説明の根拠をいろいろ考えます。
そんな時は、「分析結果に基づいています」「論理的にはこうなっています」など、科学に基づいた説明をすれば、大体は、それで上手くいきます。
でも、1年、2年経過して見返ってみると、この内容で、本当に人の役に立っているんだろうか、関係者を幸せにしているんだろうかって、考えることはないですか?
組織は上意下達で動いているので、例えば、「この仕事は顧客の成長につながらないな」と思っても、上司の命令であれば、そうせざるを得なくなってしまいます。
職務命令違反をすると、組織として成り立たないからです。
こうなると、自分を正当化するために「科学的に」理屈を付けます。
過激な表現をしましたが、誤解を恐れずに言いますと、「人を幸せにするために、やっています。」というポーズは見せますが、心の底から、「人を幸せにするために、どうするべきか。」を考えていないように思えます。
これが、積み重なると、世間の感覚からは理解できない、企業独自の社内ルールになり、新聞で見る驚くような事件に結びつきます。
正直な僕の感想です。ここには「善悪」の考え方である、「どうあるべきか」の基準が、「自己保身・出世」に置かれていると思えます。
「善悪」について思考停止しているのではないか。
そんな思いに、明快な答えを示してくれたのが、本書です。
でも、安心して下さい。本書は、あなたの良心が辛くなるような内容ではありませんし、大胆な行動を促すようなことも、まったく書かれていません。
本書は、哲学入門書によくあるような、ソクラテス、プラトンがどうのとか、弁証法がどうのとか、そんなことも書かれていません。
『人間は行為を選ぶ自由を持っている』
↓
『行為を選び、生き方を決める考え方を持つ』
↓
『この考え方(人生観・世界観)が哲学』
哲学は、あまりに身近であるために、その存在を意識していないだけだと言うのです。
『この意味での哲学は、単なる常識にすぎず、いわゆる哲学者の哲学とはまったく別のものではないか、といわれるかもしれません。
しかし、現在、常識として持っている考え方=哲学は、過去の哲学者達の思索の結晶に他ならない。現代の我々は、少し昔に生きていたとすれば、皆すぐれた哲学者だと思います。』
『我々の生活の根底には、たとえ無自覚的にせよ、人生観というものが存在しており、これがすなわち哲学に他ならない。』
哲学とはこういうものだと説明することから始められています。
科学と哲学の違いについては、『科学は、どこまでも「事実がどうあるか」ということを探求するもので、この点に問題を制限することによって、はじめて「実証的な科学」として成功しえた』ものだと説明されています。
つまり、
- 科学は、「いかにあるか」であり、事実についての判断。
- 哲学は、「いかにあるべきか」であり、価値についての判断。
科学的知識と矛盾するような哲学は許されないが、科学は、けっして自ら人生観を与えることはできないものなので、哲学を学ぶ意義があるのだと説明されています。
古い話ですが、大学院の最初の必修科目が、「数量分析」、「基礎経済学」、「哲学」の3つであった理由が、やっと腹落ちしました。
当時の「哲学」の授業は、ちんぷんかんぷんでした・・・。
岩崎教授に教えていただけていたら、「哲学」の有効さと面白さに気付けていたのに・・・。
著者の岩崎武雄さんは、東京大学文学部の哲学科を卒業された、東京大学の名誉教授です。
東大の名誉教授の授業が、『哲学のすすめ』で読めて、814円です!いやぁー、本ってホントニいいですねぇ。
【要約】抜粋ポイント5
1.手段としての行為は、現実の状況において行われるのですから、現実の状況についての科学的な知識が必要となります。
そして、行為の目的は、単なる科学的知識からは導くことができないのです。
目的とは事実に関するものではなく、価値に関係するからです。
2.目的を見失って、ただ現実の情勢分析から行為を決めようとする誤りは、保守的な現実主義者のおちいりがちな誤りであると言えましょう。
年を取って分別くさくなると、この誤りにおちいりやすくなるのではないでしょうか。
現実の情勢のみから、行為を決定しようとすれば、おそらく多くの場合、大きな危険はないと言えるかもしれません。
しかしそこには、何の理想も存在しません。
ただ現実の波に動かされて、狭い眼界の中で最善の行為を選ぼうとする事に外なりません。
3.人間が生きているかぎり、価値判断、哲学の問題がもっとも重要です。
この重要な問題を学問の領域から追放してしまうならば、その学問は、もはや魂のない形骸にすぎなくなってしまうのではないでしょうか。
人間と学問とどちらが大切なのか、と問いたいのです。学問は人間のために存在するのです。
4.自然科学の場合でも、判断の真理性、客観性ということは、必ずしも事実によって確証されるものではありません。
むしろ、古い仮説のもつ限界を自覚することによって、かつ、新しい仮説を打ち立ててゆくという過程によって、次第に獲得されていくのです。
自然科学の判断も、絶対の確実性をもつものではありません。
人間の思惟の発展を通じて、次第に客観的なものへと進展してゆくのです。哲学の客観性も同じです。
5.幸福というものが、ちょっと考えるとわかりきったもののように見えながら、実はまったくあいまいなものであり、人によって異なるものである。
幸福をなんと考えるかということが、我々の哲学によって決まってくると言わなければならないのです。
幸福の内容を決定するものが、哲学なのです。ひいて我々の日常の生活のしかたまで異なってくるのではないでしょうか。
行動ポイント
「いかにあるべきか」、「何のためにこれをするのか」を自分が腹落ちできるまで考えること。
これによって、「ぶれない」自分になれます。
読書の成果
日々のビジネスでは、対顧客、対部下との対話の中で、自分として、「ゆずれない部分」と「相手の考えにまかせてもよいと思える部分」がでてきます。
「いかにあるべきか」を自分が腹落ちするまで考えられていると、「相手の考えにまかせてもよいと思える部分」が多くなる増えるように思います。
「いかにあるべきか」を真剣に考えると、本当に「ゆずれない部分」が磨き上げられて、核心だけが残るからです。これを心がけてきて、日々の仕事が、ずいぶんと楽になりました。
ただ、対上司との関係だけは、いかんともしがたいですね。正論だけで物事が運ばないのは世間の常ですが、ぶれない自分をつくって、「いかにあるべきか」をしっかりと考えることです。
書籍情報
書 籍 哲学のすすめ (講談社現代新書)
著 者 岩崎 武雄(いわさき たけお)氏
出版日 1966年01月16日 (2011年3月10日 第79刷発行)