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【書評:3】『生命とは何か』【量子力学の創造者が追求した生命の本質】

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東京と京都で、20年以上ビジネスパーソンとして働き、様々な企業や役所などの、いろいろな役職の方々とお仕事をさせていただいてます。

本記事では、『生命とは何か』の書評をお届けします。

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書籍の紹介

著者は、エルヴィン・シュレーディンガーさんです。

ノーベル物理学賞を受賞し、オーストリア紙幣の肖像にもなった方です。

量子力学の基本方程式であるシュレディンガー方程式や、シュレディンガーの猫を提唱するなどの、量子力学を築き上げた方です。

その物理学者が、生物学の領域に踏み込んだ本を書くなんて、よっぽど生物学に興味があったんでしょうね。

それも、DNAの二重らせん構造を解析したワトソンさん、クリックさんが、そのインスピレーションを与えられたというレベルの本です!

頭脳は天才なんでしょうね。

とにかく、物理学からの「生命とは何か」のアプローチを書いた本書ですが、「物事を考えること自体」が、なんと面白いことかということが、行間から伝わってきます。

偉大な学者とは、こんな風に、物理学、生物学、哲学など様々な角度から思索を広げてゆくのか、ということがわかります。

誤解を恐れずに言えば、180ページほどの薄い本ですけど、推理小説のような楽しさがある一冊です。

思想は、「質」が本質で、量ではないことの見本ですね。

本書の場合、まずは、「訳者あとがき」から読むことをお薦めします。

この本が書かれた時代背景や、著者であるシュレディンガーさんの経歴などが書かれており、読み進めるに当たって参考になります。

訳者のあとがき(抜粋)

1944年に出版された原書の日本語訳書であり、・・・当時はまだ、生命現象には、生命を持たないあらゆる物質が従う、物理学の基本法則による支配を原理的に超越した何らかの生命力が関与しているかもしれないという思いが、世界の第1級の物理学者たちによっても漠然と抱かれていた。・・・本書は、このような近代的生命科学の確立へ向かって世界の物理学者たちと生物学者たちとの関心を喚起するのに重要な役割を果たした書物だ。

「訳者あとがき」にあるとおり、本書は、物理学的・生物学的に様々な示唆に富んでいるんだと思います。

わたしは物理学者でも生物学者でもないので、この本の学問史的な価値はわかりません。でも、「物事を考えること」自体が、なんと面白いことかということが、この本の行間から伝わってきます。

偉大な学者とは、こんな風に思索を広げてゆくのかと。

【抜粋と要約。ポイント5】

以下は、文系人間であるわたしが、本文から引用しつつ、要約したつもりの「見出し」であり、「解釈」です。

専門家の方から見れば、おかしな解釈があると思います。

お許しを願うとともに、ご指摘いただければ幸いです。

問1:「なぜ、我々の身体は、原子に比べてはるかに大きいのか」

シュレディンガーさんは、「なぜ、我々の身体は原子に比べて、はるかに大きいのか」の問いから出発します。

原子の大きさは、0.000 000 1ミリ (=0.1ナノメートル)ほどで、人間の身体は、天文学的な数の原子を含んでいます。

そのイメージは、コップ1杯の水の分子すべてに目印をつけ、その水を海に注いで、海を充分にかき回したとします。

その後、海の中の任意の場所から水をコップ1杯汲むと、その中には目印をつけた分子が約100個みつかるというレベルの話です。

物理法則は、原子に関する統計に基づくものであり、その原子は、「ブラウン運動」と呼ばれる無秩序な熱運動をしています。

統計に基づく以上は、法則の精度は、多数の原子が参加していることが基になっています。

物理の「拡散」現象などを例示に、多数の原子が参加していれば、無秩序な運動も、結果的に規則正しい秩序あるものになります。

人間が生物として生きるためには、偶然的な一つの原子による出来事が、過大な役割を演じないように保証されていなければなりません。

つまり、問1:「なぜ、我々の身体は、原子に比べてはるかに大きいのか」への解答は、

解答1:「人間の身体が、規則的に秩序整然とした働きをするためには、多数の原子が必要だから」となります。

シュレディンガーさんは、物理学の見地から出てきたこの解答を、生物学上の事実に適合するのかどうかを次に見ます。

結論から言うと、「この解答は、誤っている」ことがわかります。

なぜなら、遺伝子が含む原子は、1,000個程度だからです。

1,000個程度の数では、統計物理学により秩序正しい規則的な行動が必然的にでてくるには、あまりに少なすぎるにもかかわらず、親から子へと何世代にもわたり、きちんと再生産されているからです。

問2:「遺伝子が含む原子は、1,000個程度と非常に少ないのに、何故、秩序正しく規則的に親から子へと何世代にもわたり、きちんと再生産されているのか」

では、「遺伝子が含む原子は、1,000個程度と非常に少ないのに、何故、秩序正しく規則的に親から子へと何世代にもわたり、きちんと再生産されているのかを物理学の立場から、矛盾無く説明できるのか」の問いにシュレディンガーさんは進みます。

「分子を、個体=結晶とみなす」これが、遺伝子の永続性を説明するためのコア理論です。

複雑な有機化合物の分子の場合は、原子やその塊が、それぞれ個性ある役割を演じて、だんだん大きく広がっていくので、これを「非周期性の結晶」と名付けました。

遺伝子=染色体繊維は1個の非周期性個体であると考えられると。

解答2:「遺伝子が、分子で固体であると考えれば、量子論から導かれる『原子の集まりである分子は、ダイアモンドのような結晶の場合と同じ堅牢な凝縮性を持っている』ことが、遺伝子の永続性を説明するためのよりどころとなるではないか。」と推論します。

問3:進化の過程で起こる突然変異については、どう説明するのか。

そして、進化の過程で起こる突然変異については、どう説明するのかを考えます。

解答3:量子論の原理では、原子程度に小さいものは、ある状態から他の状態への移り変わりは、かなり不思議な現象を示す「量子飛躍」があるが、生物の突然変異は「飛躍的」な変異なので、これで説明できるとシュレディンガーさんは考えます。

ここまでの考察から、「物理学と同じように、生命は秩序ある規則正しい物質の行動である」とシュレディンガーさんは言います。

そして、一旦、遺伝子から離れて、生物の目でみえる程度の大きさの行動に対して、熱力学の第2法則(エントロピーの原理)がどのような意義を持つかを概観します。

※熱力学の第2法則とは、

”摩擦のあるザラザラした面で物体を滑らせたとき、物体のもつ運動エネルギーは、摩擦力による熱エネルギーに変わり、やがて止まります。
物体が、床から熱を吸収して、突然動き出すことは、エネルギーが保存していても、日常ではありえません。熱に関係したエネルギーの変化は、一方向にしか変化しません。熱に関係した現象はすべてが不可逆変化です。
すべてのエネルギーは、最終的には熱エネルギーとなり、その場から拡散していきます。これを熱力学第2法則といいます。”

「まるわかり! 基礎物理学」

問4:エントロピーとは何か

エントロピーは、観念や概念ではなく、1つの測定することのできる物理的な量です。

絶対温度0度(=これ以上物質の温度が下がらない=すべての分子や原子の熱運動が止まっている状態=摂氏 – 273度)という温度では、どんな物質のエントロピーも0です。

その物質に熱量を与えると、エントロピーは増加します。その増加量を一定の計算により測定できます。

わかりにくいですよね。この本を読み進めるに当たって、わたしは、「エントロピー=乱雑さ=混ざり合うこと=平衡状態に向かうこと」と解釈して読み進めました。
「平衡状態」という言葉は、一般社会では、「良い意味で安定した状態」というイメージがありますが、この本の中では、というか、物理学的には、「もはや自分の力では動けない状態」を「平衡状態」と表現しています。
物質は、絶えず一番乱雑な状態になろうとしていると解釈すれば、「エントロピー0の状態=摂氏-273度=分子も原子も動かない状態=秩序ある状態」「エントロピーが増大する=分子も原子も動きだし、無秩序な状態=混ざり合って平衡状態になる」と解釈でき、物理学的に厳密な解釈と違っているとは思いますが、わたしは、こう理解することで、本書を読み進めることができました。

問5:生命というものだけにある特徴は何でしょうか?

物質は、どういう時に、生きていると言われるのかを考えます。

生きている時には、「何かすること」を続けています。

死んだ物質は、自力では動けず、目に見える現象は何1つ起こらない、永久に続く状態に到達します。

物理学者は、これを熱力学的平衡状態あるいは「エントロピー最大」の状態と呼んでいます。

生物体が不思議にみえるのは、急速に崩壊して、もはや自分の力では動けない「平衡状態」になることを免れているからです。

自然界で進行している、あらゆることはエントロピーが増大していることを意味しています。

そして、死の状態を意味する「エントロピー最大」という危険な状態に近づいてゆきます。

これは、物理学の基礎的法則です。ですから、生きているための唯一の方法は、周囲の環境から負エントロピーを絶えず取り入れる=食べることです。

物質代謝の本質は、生物体が生きている時には、どうしてもつくり出さざるをえないエントロピーを外へ棄てるということにあります。

つまり、無秩序(エントロピー最大)にならないよう、常に秩序(食べ物)を取り入れ、エントロピーを外へ棄てるという物質代謝を繰り返すことです、とシュレディンガーさんは言います。

解答5:生命というものだけにある特徴は、物質代謝することです。

生命とは何か

シュレディンガーさんは、物理学者の立場から生命とは何かを考察してきました。

「量子論と遺伝子」、「生物体の目でみえる程度の大きさの行動に対して、熱力学の第2法則(エントロピーの原理)がどのような意義を持つか」の考察から、

「生命とは、秩序ある規則正しい物質の行動であり、物質代謝することである」という結論を導きました。

しかし、その上で、突然、「生きているものは、物理学の法則に帰着させることのできない『仕掛け』で働いているという結論を出す準備が整った」と言い出します。

 秩序正しい事業を生み出すことのできる「仕掛け」には2通りの異なるものがあるのではないか、とシュレディンガーさんは考えます。

1つは、物理学の原理である「統計的な仕掛け」で、「無秩序から秩序」を生み出す。

もう一つは、生きているものの最も著しい特徴である「秩序から秩序」を生み出すもの。

そして、この2つは、つきつめてみれば、何か共通のものを持っているように思われる。

何が、その共通のものであるかを知り、生物体の場合を新奇で前例のないものにしている著しい違いが何であるか、を知ることが残されている問題だとシュレディンガーさんは言います。

ここで、ヒントとして、秩序から秩序を生み出すものの例に、振り子時計を挙げます。

振り子時計は、熱運動の無秩序から離れて(超越して)、力学的な動きをすると。

振り子時計と生物体は似ていると考察します。生物学に物理学の法則が当てはまる可能性を示唆します。

ここからは、なんと、哲学的な話に移っていきます。

「この『私』とは一体何でしょうか?」と。うーん、ここからは、ついて行けませでした・・・。残り、数ページなんですが。

行動ポイント

◯物事を思考する際には、突飛と思えることでもバカにせず、可能性として置いておくこと。

◯謙虚さの大切さ

 1944年に書かれた時点では、シュレディンガーさんは、ノーベル物理学賞を受賞(1933年)しています。

そのシュレディンガーさんが、自分のことを「つつましやかな物理学者」と表現するなど、大変に謙虚です。

山中伸弥さんも、まさにそうですが、物事を突き詰めた人間は、このようにも謙虚に振る舞われるのか。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ですね。

おまけ

シュレディンガーさんは、この本の中で、物理を学んでいない一般的な社会の人々のことを「広汎な一般の読者」と表現されています。

それに比べて、この本の訳者は、あとがきで、一般的な社会の人々のことを「通俗」という表現を使われています。

本書を翻訳し解説するぐらいの方ですから、学者の中でも相当の地位にあった方だと思われますが、「一般人は無知な人々」として見下しているように感じられ、気分が害されます。

また、あとがきの中で、ある大学の教授名とその著作を実名の名指しで、こき下ろしています。

論文であれば、他人の主張に対して、論証を加え批判することは当然あります。

でも、一種の公共財とも言える文庫本で、しかも幾世代も残るような岩波文庫の大変残念な行為だと思います。

あとがきは、構えてお読み下さい。(あとがきを書いた本人は既にお亡くなりになっています。)

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